3.結果
1)測定と分析
物理的測定にはファンクションジェネレーター(NF DF191)より発生させた三角波(周期10msecの1波)を用いた。
時間制御はリアルタイム刺激反応計測装置(Mori OM1000)で行い、増幅器(Yamaha CA X11)、
スピーカ(Bose 101M)を通して呈示した音を、各音場条件ごとに、マイクロホン(B&K 4144)で受け、
PCMテープレコーダー(Technics SV−P100)に録音した後、FFT(Ono−sokki CF400およびCF910)で分析を行った。
結果を図6(原波形の時間パタン)、図7(原波形のスペクトル)、写真2〜8(省略)(各音場条件の波形の時間パタン)、写真9〜15(省略)(各音場条件の3次元スペクトル)、および表3に示す。
図6
図7
2)聴感実験の結果
a)原音場とヘッドホンの音との比較
原音場(スピーカの音)とヘッドホンの音を聞き比べた時の差は、5段階尺度で評価して平均0.8で
1カテゴリー内におさまり、それほど大きいとはいえない。ただし、ラスク配置条件によってこの差
は0.4から1.4に広がり、条件1と6では1カテゴリーを越えている。
b)絶対判断(5段階尺度によるカテゴリー判断の結果)
条件6の評価が、美しさ、豊かさ、明瞭さ、かたさ、のすべての点で高い。
c)一対比較(Scheffeの方法による)
条件6が他の条件と比べてもっとも音質が良いとされ、条件7がこれに続いている。一方、悪い方では
条件4がもっともマイナス点が高くついで条件1である。
4.考察と結論
1)ラスクを設置することによって、音場で記録した振幅エンベロープの形(波形)は大きく変化する。
2)ラスクを音源と受音点の背後にそれぞれ設置した場合(R2条件、RR条件、条件6など:図3〜5参照)、直接音と反射音がよく融合し、もとの振幅エンベロープ(電気信号)の形をよく保存している。また、直接音と全く分離した形のエコーの量は少ないように見える。
3)ラスク等、種々の反射板を設置することによって変化させた条件下において、バイノーラル録音・再生した音について音色評価を行ったところ、上記条件の場合の音色がもっとも好まれた。
4)実験2のすべての条件にラスクを使用したが、各条件間の好みの差は、原音場における音色とその音をバイノーラル・ヘッドホンを通して聞いた場合の音色の差以上に大きかった。このことは、a)バイノーラル・ヘッドホン受聴によって音場の評価が可能ということ、b)同じラスクを用いても適切な配置でなければ、よい効果は期待できないことを意味する。
5)これまでの一連の測定、実験で、ラスクの配置と音場の変化、本実験に限っての最適なラスクの設置条件、音場における音色の変化をとらえる心理的測定法の開発は行えたと考える。
6)残された問題として、さらに精密な音場の変化の測定、定量化の手法があるが、このためには性能のよりすぐれたバイノーラル録音・再生のシステムを開発する必要があろう。また今回得られた知見をさらに大規模なコンサート・ホール等において検証する必要があるが、本課題については、京都芸術音楽学部浅井憲教授を中心とするチームにおいて実験される予定である。
引用文献
1)M.R.Schroder、D.Gottlob and K.F.Siebrasse, "Comparative study of European concert hall:correlation
of subjective preference with geometric and acoustic parameters", J.Acoust.Soc.Am.,56, 1195-1201(1974).
2)安藤四一・大寺一弘・浜名祐志、”オーディトリアムにおける最も好ましい残響時間に関する実験”、日本音響学会、
39、89-95(1983).
3)H.Otsubo, T.Teshima and S. Nakamizo, "Effects of head movements on sound localization with an electronic
pseudophone", Jpn. Psychol, Res., 22, 110-118(1980).
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